写真を撮ることしかできないから、ロックな生き方をする

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ジオラマ、パノラマ、深夜撮影を得意とし、長いキャリアを積まれてきた小野寺宏友さん。前編では、30年のキャリアをさかのぼるとともに、話題作「シンヤノハイカイ」の秘話や、『アサヒカメラ』で特集された野良桜についてお話いただきました。後編では、代表作であるスカイツリーの定点観測写真のお話を中心に、小野寺さんのユニークな生き方を伺いました。

 →前編はこちら

Photographer:小野寺宏友 1960年東京生まれ

”王道を歩まないフォトグラファー”

1982年 武蔵野美術短期大学商業デザイン科卒業
    同年模型雑誌で特撮デビュー
1986年 フリーとして独立
2003年 ライフワーク“シンヤノハイカイ”シリーズ撮影開始
2007年 東京スカイツリー(R)定点観測開始 TV出演多数
2012年 東京スカイツリー(R)公認写真集『東京634』(ソフトバンククリエイティブ)出版
2013年 ”野良桜”の概念を発見し撮影開始

 

 

”テクノスケープ”として美しい東京の川を来世紀へと伝える

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 ”彫刻水路都市” SHOT JAPAN GALLERY

真夜中の東京をさまよいながら撮影した「シンヤノハイカイ」から派生して、2004年から東京の水路を撮り始めました。一本の川の、そこにかかるすべての橋の上から水路を撮影しました。ある時、暗渠化した渋谷川の存在を知ったんですね。渋谷駅前からは開渠になり、広尾・麻布十番・芝公園脇を通り、東京湾へ流れ込んでいる小さな川。ここに最初に流れていた小さな水が、実は海まで続いているんだと知ったとき、都市河川のすさまじい生命力に気づいてしまったんです。死んでいるようで、ちゃんと生きている。

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”彫刻水路都市” SHOT JAPAN GALLERY

当時、畠山直哉さんが天国の入り口みたいに見えるとても美しい渋谷川の暗渠の中の写真を撮って、賞を受賞していました。あれには勝てない。じゃあ僕ならどうするか。すべての写真を、橋の上流側と下流側を完全に真ん中から水平垂直に撮る構図にしたんですね。そして河口まで撮影、それらの写真を蛇腹状につなげていきました。2005年に大手町で展示した日本橋川にかかる橋からの写真は全長18メートルにおよび、それらを離れて見ると1本の川のポートレイトとなりました。

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”彫刻水路都市” SHOT JAPAN GALLERY

作品のタイトルは、僕が好きなドイツの写真家ベッヒャー夫妻の「無名の彫刻」という概念からヒントを得ました。川は、大地が掘った地形に流れている。都市河川は、人が固めた護岸を流れる。それはいわば、大地と人とのコラボレーションであり、「無名の彫刻」でもある。直線で固められた人工的な川は、不幸だけれども”テクノスケープ”としての美しさを放っていると感じたんです。だから「彫刻水路都市」と名付けました。都市は川の周囲に人が集まってきて、治水が進んで、コンクリートの護岸になった。そんな時の流れを感じるようなものにしました。この作品を何十年か後に見た人たちが、「21世紀初頭の東京の川ってこんな風だったんだ」と言ってもらえるようなアーカイブになればいいなと思います。

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100年先へのアーカイブとして撮影したスカイツリー

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”Tokyo Skytree” SHOT JAPAN GALLERY

僕の代表作ともいえる写真集『東京634』(ソフトバンククリエイティブ2012年)は、東京スカイツリーの着工から完成までを定点観測で撮影した作品です。

さかのぼること9年前、2007年10月に地元の有志によって4本のサーチライトでのシミュレーションイベント、「光タワー」が作られました。この光タワーから新タワーの完成までを撮ったらおもしろいんじゃないかなと思ったのが、定点観測撮影のきっかけです。それと、パリのエッフェル塔が建ったのが120年前も前になりますが、建設されていく様子を定点観測した写真が今も鮮明に残っていて伝わっていますよね。同じように光タワーから定点観測した写真を撮れば、僕の写真も100年先まで伝えられるんじゃないかと思ったんです。そういった100年先へのアーカイブという意味も込めて撮影を始めました。

2008年7月の着工からスタートし、2012年5月の開業まで1ヶ月に1回、毎月撮影を行いました。メインの撮影では4×5の銀塩カメラを使い、フィルムとデジタルを併用しました。最初、デジタルが銀塩かで考えていたんですが、当時の一眼レフデジカメの最高画質は2000万画素程度で、ふと疑問が浮かんだんです。フィルムというのはいずれ消えていくメディアだとはわかっていましたが、2000万画素のデジカメで撮ったクオリティではアーカイブとして100年後にはどう見られるんだろう?と。だったら、自分が持っている大判機材とフィルムを使って記録したほうがいいんじゃないか。もちろん、フィルムが100年後に退色しているかもしれません。ただ、そうした場合も100年先のテクノロジーで色を復元することは可能ですよね。ということで、あえてフィルムを選びました。

スカイツリーが開業した2012年、銀座のコダックフォトサロンで個展を開きました。そこでは、春夏秋冬同じ場所にパノラマカメラを構えて、春は朝、夏は昼、秋は夕方、冬は夜というふうに1年の変化を1日の変化と融合させた360度のパノラマを4年分シームレスに1本につなげている作品もあります。

Tokyo Skytree 2008-2012

”Tokyo Skytree” SHOT JAPAN GALLERY

スカイツリーの定点観測は、誰にも頼まれていないのに自分1人で勝手に撮り始めました。地元の方々向けの定点観測講座なども行いました。そうしたらだんだん色々な取材を受けるようになって、写真集も出せるようになった。でも実は、何でスカイツリーを定点観測したいのか、最初は自分でもわからなかったんです。もちろんエッフェル塔がモデルになったというのはあるんですが、なぜ撮るのだろう、定点観測のコンセプトは何だろう、とモヤモヤしていた。そこで、カフェにこもって考えたんです。通称「オレ1人会議」(笑)。そこでは、ウルトラマンとかサンダーバードとかプラモデルとか、子どもの頃から好きだったものをキーワードでわーっとノートに書いていきました。書き出しているうちにふと、バージニア・リー・バートンさんの「ちいさいおうち」という絵本が大好きだったのを思い出したんです。ちいさいおうちを中心に話が展開し、ちいさいおうちの周りが変化してだんだん街になっていくお話。あ、これだ!と。僕は「ちいさいおうち」をインプリンティングされていって、それでスカイツリーの定点観測をするようになったんだ、と。こんな風に僕の作品はどれもきちんと芯を持っていて、その芯がいつもどこにあるか考えて写真を撮っています。

 

過去は振り返らずに、未来しか見ない

 

こうしてみると、本当に変なことばっかりやっているなと自分でも思いますね。最初にも言ったように、僕は王道を歩みません。常に自己流の表現をしているので、あまり作品も売れないし、いつだって貧乏です(笑)。それでも他の仕事は考えられないし、僕は写真を撮ることしかできないんです。あの頃に戻りたいとか全く思わないし、いつの時代も最低なので過去なんか振り返りません。未来しか見ずに、これからもロックな生き方を続けるつもりです。

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表現の可能性を広げるため、写真に限らず普段からいろいろな人の作品を見るようにしています。SHOT JAPANのギャラリーでは、藤原明さんが気になりました。高校卒業後にスペインへ留学し、26歳で本格的に写真を始めたとのこと。彼のプロフィールにある「写真は現実を写さない。カメラと言う媒体で新しい世界を創造するものである。もしかして現実よりもっと美しいかもしれない。」という言葉が好きです。志がいいですよね。今後どういう作品を出していくのか、彼のオリジナルの世界がどんなものなのか気になります。

 

インタビュー SHOT JAPANスタッフ ユミ